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スローターハウス5 / カート・ヴォネガット・ジュニア


 僕はヴォネガットの著作の中では「タイタンの妖女」が最も優れていると思っているのだが、世間では本書「スローターハウス5」がヴォネガットの最高傑作ということになっている。
 というのも、荒唐無稽(と、僕は決して思わないけれど…)なSF小説である「タイタンの妖女」に対して、「スローターハウス5」はヴォネガットが第二次世界大戦時に捕虜として経験した壮絶な戦争体験、ドレスデン爆撃を題材にした小説であり、体裁としては依然としてSFであるが、戦争という普遍的なテーマを半自伝的に語ったことから、ヴォネガットがSFファンを超えて多くの読者を獲得する契機となった作品だからである。
(因みにドレスデン爆撃は広島・長崎の原爆に匹敵する10万人超の死傷者を生んだと言われているが、本小説発表当時は世間一般にはほとんど認知されていなかった)

 この小説は先ず、本書すなわち「スローターハウス5」をどのような経緯で書くことになったかというヴォネガット自身の描写や心情告白から始まり、その後いわば小説内小説のような様相で物語が始まる。この構成はどこかで見たことがあると思った方もいると思うが、村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」に極めて類似している。両作品を読んだことのある方なら分かると思うが、「風の歌を聴け」は、構成ばかりか文体までヴォネガットの小説に多大な影響を受けており、「スローターハウス5」を下敷きにして書かれたといっても過言ではないと思う。

 それはともかく、ヴォネガットの小説に関して僕は、いくら語っても語りきれないほどの思い入れがあり、時間がいくらあっても足りないので、ここでは簡単にヴィネガットの愛すべき人柄が端的に表れた文章を、本書から抜粋して終わりにしよう。以下の文は、物語の本編が始まる直前、ヴォネガットが本書を執筆するまでの過程を描写したチャプターの一部である。


 わたしはモテルの部屋にあるデギオン聖書をひらき、大いなる破壊の物語をさがした。


 ロトがゾアルに着いた時、日は地の上にのぼった。主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて、これらの町と、すべての低地と、その町々のすべての住民とその地にはえている物を、ことごとく滅ぼされた。


 そういうものだ。
 周知のとおり、この二つの町に住んでいたのは悪い人間ばかりである。彼らが消えたおかげで世界はいくらかマシになった。
 ロトの妻は、もちろん、町のほうをふりかえるなと命ぜられていた。だが彼女はふりかえってしまった。わたしはそのような彼女を愛する。それこそ人間的な行為だと思うからだ。
 彼女はそのため塩の柱にかえられた。そういうものだ。
(カート・ヴォネガット・ジュニア / 伊藤典夫訳 「スローターハウス5」 早川書房 1978年)


 もちろんこの文でヴォネガットは、自分もドレスデン爆撃という過去を振り返った塩の柱だと言いたいわけである。だがしかし、僕が注目したいのはその点ではない。
 旧約聖書の創世記によると、主は悪人が住むとされるソドムとゴモラを滅ぼすことを決め、その地から逃れる過程で、ロト達に振り返るなと命じた。にもかかわらず振り返ったロトの妻は、明らかに罪を犯したと言える。しかし、滅ぶのが悪人であると分かっていながら振り返らずにはいられなかったロトの妻を、ヴォネガットは人間的であり、愛すべきだと述べた。これこそが、ヴォネガットの全ての小説の基底に流れるやさしさであると思う。人間の愚かさや、醜さ、これらを決して否定せず受け入れる、ヴォネガットのやさしさ。このやさしさ故に、僕はヴォネガットと彼の小説を心から愛して止まない。

 芥子とバラの口臭でも構わない。マジでヴォネガットLOVEっす♪

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仙台在住の、ぐーたら理系大学生です。
ネコ大好き、コーヒー大好き、チャミスル大好き。
好きな作家は橋本治、島田雅彦、遠藤周作、ヴォネガット、サリンジャー、ル・グウィン、カミュ、ドストエフスキー(←バラバラ)などなど。あと小林さんちの秀雄くんや、インテリ源ちゃんこと高橋源一郎も愛読。

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